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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)43号 判決

埼玉県三郷市東町二二八番地

控訴人

斉藤登喜蔵

右訴訟代理人弁護士

仲田晋

同県越谷市越ケ谷一丁目一番一号

(承継前の原審被告

春日部税務署長)

被控訴人

越谷税務署長

高坂和正

右指定代理人

井上経敏

岩谷久明

戸川忠志

佐藤文夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  求める判決

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  春日部税務署長が控訴人に対し昭和四三年二月五日付でした控訴人の昭和四一年分所得税の更正処分中、税額六万五、〇七〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分中二、六〇〇円を超える部分を取り消す。

3  右署長が控訴人に対し昭和四五年四月二七日付でした控訴人の昭和四一年分所得税の再更正処分及び過少申告加算税再賦課処分を取り消す。

4  控訴費用は控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文第一項と同旨。

二  主張

原判決事実欄の「第二 当事者の主張」(原判決三五丁ないし三八丁の別紙・処分経過表及び物件目録を含む。)に記載のとおり(ただし、原判決三丁裏一〇行目の「目録(一)」のあとに「記載」と、同四丁裏一行目の「ついて、」のあとに「その」とそれぞれ付け加え、同一〇丁裏九行目に「許」とああるのを「訴」と改め、同一一丁表一〇行目及び同一二丁裏一〇行目の「目録(二)」のあとに「記載」とそれぞれ付け加える。)であるから、これを引用する。

三  証拠

次に付加するほかは、原判決事実欄の「第三 証拠」に記載のとおり(ただし、原判決一五丁裏九行目末尾の「、」を取る。)であるから、これを引用する。

(控訴人)

1  甲第三六号証。

2  当審における証人篠田隆春、同武田五郎、同竹沢元次郎及び当審における控訴人本人。

3  乙第四一号証の一ないし七の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

(被控訴人)

1 乙第四一号証の一ないし七、第四二号証ないし第四六号証。

2 甲第三六号証の原本の存在及び成立ともに認めるが、書込部分の記載は不知。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えのうち、本件更正処分中本件再更正処分によって取り消された部分の取消請求に関する部分及び本件再更正処分の取消請求に関する部分はいずれも不適法としてこれを却下し、本件更正処分のうち右以外の部分の取消請求は理由がないから、失当としてこれを棄却すべきであると判断するが、その理由は、次に付加・訂正するほか、原判決理由説示(原判決一七丁表二行目冒頭から同三四丁表三行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七丁表二行目に「本案前の」とあるのを「本案前の主張についての」と、同一八丁表五行目に「請求は、いずれも」とあるのを「請求に関する部分については、控訴人はいずれもその」とそれぞれ改める。

2  同一八丁表九行目冒頭から同丁裏一行目の「ことは、」までを「控訴人は、昭和二七年一二月三一日以前から本件土地を所有し、事業(農業)の用に供していたところ、これを昭和三八年四月一日以降周辺一帯の土地(本件埋立地)とともにごみ埋立処理場用地として東京都清掃局に使用させ、その返還を受けた後の昭和四〇年八月二八日、第一屋製パン株式会社に譲渡(売渡し)したことは」と改める。

3  同一九丁表一〇行目冒頭から同三一丁裏六行目末尾までを次のとおり改める。

「そこで、本件についてこれをみるに、いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第三二号証ないし第三五号証の各一部、原審における証人鶴岡孝七功、当審における証人竹沢元次郎の各証言、当審における証人武田五郎の証言の一部、原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  控訴人はその住居地で古くから農業を生業としている者であり、本件土地は控訴人がその耕地の一部として所有していたものである。しかし、本件土地及びその周辺一帯は低湿田地帯で、常時、堪水によって冠水し、そのため水稲の生産量は低く、予てから土地改良の必要が叫ばれていた。

(2)  そうした矢先、東京都清掃局から地元の三郷村(当時)当局を介して右一帯の土地を東京都のごみ埋立処理場用地として利用する計画が持ち込まれ、多少の曲折はあったものの、埋立て終了後覆土して、折柄、付近の農地について実施されていた土地改良事業による耕地整理を行なえば、これを良質の畑に転化できるとの判断から、控訴人ほか一九名の土地所有者は昭和三八年三月二二日、東京都清掃局長との間で、同年四月一日から埋立て終了(昭和三九年三月三一日の予定)まで、右土地一一、九六二坪(本件埋立地の一部)をごみ埋立処理場用地として使用させる旨の使用貸借契約を締結し(ただし、右契約締結の点は当事者間に争いがない。)、これを引き渡した。なお、右契約に基づく東京都による土地の使用は無償であるが、これによりその使用期間中耕作が不可能となるため、右土地所有者らは、契約の際、一年間の休耕に対する補償費として東京都から反当り金三万円の割合による金員の交付を受けた。

(3)  右契約において、「埋立て」とは、本件埋立地にごみを運んできて埋める(埋立作業)とともに、そのあとに覆土してこれを整地する(覆土作業)ことをいうものであるところ、埋立作業と覆土作業の双方とも使用借主たる東京都の担当とされた。東京都は昭和三八年四月ごろ本件埋立地の引渡しを受けたあと、まず北側の県道に近い方から埋立作業を進め、これがある程度進行した段階で覆土作業にかかり、その後は、一定の間隔を保ちながら覆土作業が埋土作業のあとを追う形で両作業が進められた。そして、その作業中、昭和三八年一一月一四日には、訴外白石一二ほか三名が本件土地の周辺にある各所有地をごみ埋立処理用地に提供して、東京都清掃局長との間で、前同旨の使用貸借契約(ただし、使用期間は同月一五日から昭和三九年八月三一日まで)を締結し、その結果、本件埋立地の面積は合計約一万二、八〇〇坪に拡張された。

(4)  東京都による埋立ては、当初の予定よりかなり遅れ、本件埋立地全域について覆土作業が完了したのは昭和四〇年二月ごろであり、本件土地を含む本件埋立地が正式に各所有者に返還されたのは同年四月二日であって、これにより使用貸借契約は終了した。

以上の事実が認められ、前示乙第三二号証ないし第三五号証の各記載及び当審における証人武田五郎の証言中、右認定に反する部分は前記原審及び当審における控訴人本人尋問の結果と対比してたやすく信用できず、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。

ところで、原審における証人戸石博、同渡辺政一、当審における証人篠田隆春の各証言並びに原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果を総合すると、控訴人が所有していた本件土地は、本件埋立地は、本件埋立地のうち北側の県道から五、六〇メートル入った、北側と南側のほぼ中間の位置にあり、割合早い時期に埋立てが終了したところ、控訴人は昭和三九年六月二八日、地元の農業委員会から電話で土地を使用してもよい旨の通知を受けたので、同年八月中旬、本件土地(ただし、当時は埋立ての直後であったため、他の土地との区画は明確でなかった。)のうち約八畝にわたって「べか菜」を播種し、収穫を得たこと、そして、同年一〇月初旬にはそのほとんど全域にわたって、「べか菜」、「小松菜」、「小かぶ」、「春菊」、「そら豆」を播種し、その結果、「べか菜」、「小松菜」、「そら豆」については相当の収穫を挙げたが、「小かぶ」、「春菊」は発育不良で、収穫はなかったこと、さらに、昭和四〇年四月初旬には約三反五畝にわたって「べか菜」、「小松菜」、「小かぶ」、「春菊」等を播種し、ある程度の収穫を挙げたことが認められる。

しかしながら、控訴人の右耕作は、埋立て後の本件土地において果して農耕が可能なものかどうか、各種の作物を播種してその結果をみるため試みにされたものであることは、原審の本人尋問(第一回)において控訴人自身が供述しているところであり、前掲各証拠によっても、第一屋製パン株式会社に売り渡された当時、本件土地が本格的に農業の用に供されていたと認めることは困難である。そればかりか、前示乙第一号証、第二号証の二、第三五号証、いずれも成立に争いのない乙第四号証、第八号証ないし第一三号証、第二二、二三号証、原審における証人河西三男、同細貝義雄、同鶴岡孝七功、当審における証人武田五郎の各証言並びに原審(第一回)における控訴人本人尋問の結果の一部によれば、

(1)  東京都清掃局が行なう埋立ては、地表面を北側の県道より一・三メートル(覆土とも)高くし、覆土の厚さを三〇センチメートルとすることが基準とされていたが、実際には、一般家庭から出る生ごみのほか、工場の廃棄物、工作物の残骸、ビニール、ゴム、バッテリー等の不燃物資、その他雑多なごみが二メートルから三メートルぐらいの厚さに炭がらを敷き、さらに、その上を三〇センチメートルぐらいの厚さの山砂で覆うという程度のものであり、そのため埋立てたごみからガスが発生して悪臭を放ち、覆土後のままではとうてい本格的に農業の用に供し得る状態にはなく、これを事業用農地として使用するためには覆土の上にさらに三〇センチメートルから四〇センチメートルの盛土をしたうえ、耕転、施肥をする必要があったこと、

(2)  また、埋立て後の本件埋立地の地表面にはかなりの凹凸があって整地されてはおらず、各所有地間の地境も分明ではなくなっていたこと、

(3)  以上のような状態にあったため、本件埋立地が返還されても、控訴人以外にその所有地を耕作する者はなく、本件埋立地は荒地の状態で放置されており、折柄、本件埋立地を含む一円の土地が土地改良区に組み込まれ、土地改良事業による耕地整理が進行していたので、本件埋立地の各所有者は、その所有地を本格的な農地として農業の用に供する目途を右土地改良事業の施行後においていたこと、

以上の事実が認められ、前記原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに措信し難く、ほかにこれに反する証拠はない。

右事実によれば、控訴人は、埋立て完了後も少くとも第一屋製パン株式会社に対する売渡しの話が持ち上がるまでは、いずれ畑として農業の用に供する意図のもとに、本件土地を所有していたことは明らかである。しかしながら、東京都から事実上本件土地の返還を受けたあと、控訴人が各種の作物を播種してこれを耕作したといっても、その耕作は試験的なものにすぎず、右売渡しの当時、本件土地が農業の用に供されていたこと、換言すれば、事業として収支相償わせる意図をもって継続して耕作されていたとはとうていいえないし、客観的にも本件土地が農業(事業)の用に供し得る状態になかったことは前述したとおりである。また、右事実によれば、右売渡しの時点において、控訴人の前記の意図が近い将来において実現されることが客観的に明白であったともいい難く、したがって、控訴人の第一屋製パン株式会社に対する本件土地の譲渡(売渡し)については法三八条の六所定の要件を具備せず、同法条を適用する余地はないものというべきである。

そうだとすれば、右本件土地の譲渡について法三八条の六の規定を適用しなかった本件更正処分は正当であって、この点に違法はない。」

(4)  同三二丁裏四行目「売渡し」とあるのを「売り渡し」と、同一一行目に「停止条件」とあるのを「法定条件」とそれぞれ改め、同三三丁表三行目の冒頭に「ところで、」と付け加える。

二  よって、右と結論を同じくする原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣学 裁判官 磯部喬 裁判官 大塚一郎)

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